和歌山家庭裁判所田辺支部 事件番号不詳 決定
少年 T(昭一六・二・八生)
主文
この事件について少年を保護処分に付さない。
理由
本件送致事実は、本件記録に現われた各証拠により証明充分である。よつてその処分について考えるに、前記証拠によると、少年は過去に傷害罪により初等少年院に送致された経歴を有し、その後昭和三四年一二月より昭和三五年三月頃までの間四回にわたり、強盗、強盗致死の犯行を重ね、右犯行について公判審理の結果、無期懲役刑の言渡を受け、更に、右言渡の際本件犯行を行つたことが認められ、これ等事情に少年の性格、資質等を綜合すると、少年の犯罪的危険性は何等改善されず、むしろ漸次激化していることがうかがえるのであつて、少年に対してはもはや保護処分によつてはその非行性を改善することは不可能であると考えられる。
よつて次に少年に対し刑事処分相当かどうかを考慮するに、本件犯行の罪質、情状に照せば、当然刑事処分に付するのが相当であると思われるが、少年は前記強盗、強盗致死罪の刑により、現在表記刑務所(編注―奈良少年刑務所)内に於て服役中であり、しかも右入所後本件犯行を含む従前の犯行について深く改悛し、これを機会に途絶えていた両親との心的交流も回復し、更生の意欲を持つに至つたことが、本件についての審判の結果明らかとなつた。すると、このようにようやく反省の色を示しはじめた右少年に対してはこの際更に刑罰を科するよりも、従前の刑の執行を続いて受けさせることが、少年に対し改悛の意欲を保進させ、仮出獄の希望を持たせることとなつて、右刑の執行を円滑にし、その教育の効果をあげる結果となるものと考えられるからこのような点より、少年に対しては更に刑事処分に付することも相当でないと考える。
然らば少年に対しては保護処分に付することは相当でなく、又刑事処分に付するのも相当でないと認められるので少年法第二三条第二項により主文のとおり決定した。
(裁判官 井上孝一)
参考(検察官の送致書に記載されたもの)
一、犯罪事実
被疑者は予てから田辺市新屋敷町所在和歌山地方裁判所田辺支部に於て強盗、同致死被告事件の被告人として審理を受けていたものであるが、判決宣告期日たる昭和三十五年八月一日午前十時、前記裁判所法廷に出廷し、裁判長長瀬清澄より被疑者に対する無期懲役刑の判決文を読上げられ、それに引続き訓戒を受けたが、その中に被疑者(被告人)の所為は死刑又は無期懲役の何れかに該当するところ特に考慮して軽い無期懲役刑を選択したとあつたことを聞いて憤激し失庭に被告席より柵を飛越えて判事席に駈け登り控訴状を差出す場合の注意を告げている同裁判長目がけて両手拳で殴りかかる暴行を加え以て公務員である裁判長長瀬清澄の職務の執行を妨害したものである。
二、情状
法廷侮辱も甚しいが裁判所に於ても法廷等の秩序維持に関する法律の適用をも為さず且つ被疑者が無期懲役刑を言渡されていることを勘案し特に重ねての処罰を不必要なる旨意思表示しているので審判不開始を相当と思料する。
参考(強盗、強盗致死被告事件に対する地方裁判所の判決)
主文
被告人を無期懲役に処する。
押収してある玩具ピストル(証第二五号)は、これを没収する。
理由
(罪となる事実)
被告人は、
第一、遊興費に窮した結果、予かじめ用意した拳銃に実弾を装てんし、これを使用して強盗を働らこうと決意し
(一) 昭和三四年一二月二一日午前一時ごろ、黒ハンカチで覆面した上、和歌山県東牟婁郡○○○町××××、△△△農業協同組合事務所二階宿直室で、宿直員○本○(三二歳)に対し、所携の拳銃を突きつけ、「静かにしろ、これがわからんか」と言つて脅迫し、電気ごたつやラジオのコードで同人を後ろ手に縛り、且つ、布切れでさるぐつわをし、その上を更にコードで縛つて、同人の抵抗を抑圧し、階下事務室及び同組合売店から同人所有の現金三、六八七円、○加○子所有の現金約九三六円、右組合所有の現金約八、五五七円及びコニカ中古写真機一台、半長ゴム靴一足(時価合計一〇、五〇〇円位)を強取し
(二) 同月二八日午前一時ごろ、白マスクで顔を覆つた上、同町大字○○字××○○○番地雑貨商浜口茂方店舗の寝室で、○口○○枝(六四歳)に対し、所携の拳銃を突きつけ、「騒ぐと縛るぞ、動くな」と言つて脅迫し、同女の抵抗を抑圧した上、同店内から右○口○所有の現金約六万円及び男物ズボン二本外衣類等一五点(時価合計九、七四〇円相当)を強取し
(三) 同三五年一月八日午前零時過ごろ、奈良県吉野郡○○○村大字○○×××番地雑貨商○置○彦方六畳の間入口で、右○置○彦(七三歳)及びその次男○置○見(当時二五歳)の両名に対し、所携の拳銃を突きつけ、「金を出せ、撃つぞ」と言つて脅迫し、その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが、他の家人が逃走したことに気付き、危険を感じて屋外に逃げ出したため、その目的を遂げなかつたが、同家前から○○川を小舟で漕ぎ下り、同家から約二五〇メートルの対岸に漕ぎ着いたところ同様に小舟に乗つて追跡してきた右○置○見に追い付かれたので、その逮捕を免がれるため、同所で長さ約三メートル、先端の直径約四・五センチメール、手許の直径約三・五センチメートルの木製舟棹で同人の頭部及び顔面を各一回殴打し、よつて硬脳膜外血腫による脳圧迫により、右○見をして翌九日午前三時五〇分ごろ、和歌山県東牟婁郡○○○町、○○診療所で死亡するに至らせ
第二、以上の各事件により当裁判所に公訴が提起され、刑事被告人として勾留されていたところ、勾留執行停止決定を受け、田辺市○○総合病院に入院中、昭和三五年三月二一日同病院から逃走し、それより大阪、京都、彦根の各市を放浪したが、その間京都市内で玩具のピストル(証第二五号)とナイフを買い求め、再たび強盗を働らこうと決意し、同月二七日午前一時ごろ、右玩具のピストル及びナイフを携え、彦根市○○○町○○○番地彦根市立○○小学校の小使室で、宿直中の用務員○岡○平(六二歳)に対し、ピストルを突きつけ、「騒ぐな、金を出せ」と言つて脅迫した上、その両手を麻ロープで縛り、更に宿直室で、宿直中の教員○中○三(三〇歳)及び用務員○岡○り)五二歳)の両名に対し、右の玩具のピストルを突きつけたり、所携のナイフを示して、「おい、金を出せ、騒ぐと殺すぞ」と申し向けて脅迫し、右三名の抵抗を抑圧した上、右宿直室及び同校長室から右○中○三所有の現金一、二〇〇円及び同校教頭○林○所有の現金一、五〇〇円を強取し
たものである。
(証拠の標目)
判示第一(一)の事実は
一、○本○、○田○三、○加○子の各検察官に対する供述調書
一、司法警察員作成の(昭和三四年一二月二三日付)実況見分調書
一、司法巡査瀬古伝次撮影(昭和三四年一二月二一日)の現場写真二二葉
一、現場指紋送付書謄本及び倉垣新七作成の(昭和三五年一月一一目付)鑑定書
一、押収してあるラジオコード二本(証第二号)、電気ごたつコード二本(証第三号)、半長ゴム靴(証第一四号)、コニカ中古カメラ(証第二二号)の存在
一、被告人の司法警察員に対する(昭和三五年一月一二日付)供述調書
同(二)の事実は
一、○口○○枝、○口○の各検察官に対する供述調書
一、司法警察員作成の(昭和三四年一二月二八日付)実況見分調書
一、司法巡査瀬古伝次の(昭和三四年一二月二八日)撮影の現場写真二四葉
一、現場指紋送付書謄本及び倉垣新七作成の(昭和三五年一月一七日付)鑑定書
一、被告人の司法警察員に対する(昭和三五年一月一五日付)供述調書
同(三)の事実は
一、検察官及び司法警察員作成の(それぞれ昭和三五年一月二四日及び同八日付)実況見分調書
一、医昭森岡実太郎作成の鑑定書
一、○置○彦、○置○○江、○下○夫の各検察官に対する供述調書
一、被告人の司法警察員に対する(昭和三五年一月九日付及び同一三日付)供述調書二通
右第一の各事実につき
一、○越○男、○倉○末の各検察官に対する供述調書
一、被告人の検察官に対する(昭和三五年一月二七日付)供述調書
第二の事実は
一、○中○三、○岡○平、○岡○りの各検察官に対する供述調書
一、司法警察員作成の(昭和三五年三月二七日付)実況見分調書
一、山本勘六作成の現場指紋確認書
一、押収してある玩具ピストル(証第二五号)、麻ロープ(証第二六号)の存在
一、被告人の検察官に対する(昭和三五年四月八日付)供述調書
を総合して、これを認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為中、第一の(一)、(二)及び第二の点は、各刑法第二三六条第一項に、第一の(三)の点は、同法第二四〇条後段に該当するので、後者につき所定刑中無期懲役刑を選択して処断すべく、よつて他の強盗の点については、同法第四五条前段、第四六条第二項により他の刑を科しないこととし、押収してある玩具ピストル(証第二五号)は、判示第二の行為に供したもので被告人以外の者に属しないものであるから同法第一九条第一項第二号、第二項本文によりこれを没収し、訴訟費用は、貧困により納付することのできないことが明らかであるから、刑事訴訟法第一八一条第一項ただし書により被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(和歌山地方裁判所田辺支部 裁判長裁判官 長瀬清澄 裁判官 小湊亥之助 裁判官 井上孝一)